Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

人材育成法(前)(2015/01/26) 

1月17日(土)、サンロイヤルホテルで病院の幹部研修会を計画し、私は挨拶を兼ねて「人材育成」につい簡単な話をすることになっていた。ところがインフルエンザが職員の中にも散見されるようになったので大事をとって研修会を中止とした。そこで、用意していた内容の概要を提示したい。
 人を育てることは組織の持続的な発展のためには、もっとも重要なことである。もの(建物や設備)は金さえあればすぐに用意できるが、人は簡単には育成できない。そこで医師部門に限らず各部署で、次代の南風病院を背負える人材の育成を真剣に考えてほしい。
 ある調査(産業能率大学総合研究所)によると、「中堅社員に求める役割」に対する回答の第1 位が「後輩の育成」となっている。その一方で、「後輩の育成」を“遂行している” はわずか2.9%であり、“やや遂行している” と合わせても3 割程度にとどまっている。つまり、後輩育成への期待と実際の取り組み状況には大きな隔たりがあり、「人材の育成」という問題がいかに難しいことかがよくわかる。
 NHKテレビの知恵泉(1月6日)では、「やる気を引き出せ!~幕末の熱血教師 吉田松陰~」というタイトルで、江戸時代末期「松下村塾」でわずか2年余りの間に明治維新後の日本をリードした数々の人材を育てたその方法について言及している。また今年の大河ドラマ「花燃ゆ」も、松陰の妹が主役になっている。
 吉田松陰の人材育成法の特徴として、個々人への「対話形式や手紙を使って育てた」ことが挙げられる。一方的に上意下達に教え込むことをせず、「これについては、どう考えますか?」という質問を多用し、対話によって門下生自身が自発的に考えることをサポートした。このやり方は古代ギリシャの哲学者ソクラテスでも同じで、相手に質問を投げかけ相手と問答を繰り返すことによって、相手が自分で答えを見つけ出せるように援助した。また禅宗も、問答によって弟子に自ら考えさせ、自分の力で真理を悟ることが重視されている。
 松陰は、門下生一人一人に対する個別対応を重視し、彼らの強みや長所を見つけることに長けていた。減点主義ではなく加点主義で育てた。そして相手の中に眠っている「考える力」や「問題解決能力」を引き出した。そうすることで、「自発性」や「創造性」、「責任能力」も育まれていったという。
 さて人材育成のポイントとして、スキル(広義の技能)アップには、認知能力と非認知能力(性格スキル)の二つがある。前者はペーパーテストなどで測れる類の能力で比較的簡単であるが、後者は個人的形質に依拠するものでとらえどころのないものと思われがちだが、人生の中で学ぶことも可能で変化しうるものだという考え方になってきている。
 非認知能力は、「ビッグファイブ」という五つの要素から構成されている。この考え方は2000年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のヘックマン教授の研究によるものである。その五つとは、真面目さ(自己規律)、開放性(好奇心)、外交性(積極性)、協調性(思いやり)、精神的安定性(不安、衝動が少ない)で、とりわけ真面目さの大切さを強調している。