高齢者の医療(前)(2015/03/10)
日本は世界でも例をみない超高齢社会に突入しているが、高齢者医療をどのように考えたらいいのか、難しく悩ましい問題である。例えば高齢の認知症患者への胃瘻の造設は、一昔前は「いのちは大切だから、いろいろ考えることなく造るべし」という考え方が支配的だった。ところが最近では、患者の状態やQOL、また医療費も考えてケースバイケースで判断していこうというような雰囲気になってきている。
命の大切さに異論をはさむことはないし、その大切さは十分にわかっているつもりである。それでも資源は有限であり、日本の財政事情を考えると事態は深刻である。現役世代の満足は次世代の負担と不幸に通じる。英国やドイツでは、60歳以上の患者は人工透析の保険適用を受けられないのは衆知のことである。ところが日本では、窓口での自己負担は年齢別の割合が定められており、0歳から小学生になるまでの子どもは「2割」(無料化の都道府県も多いが)、小学生から69歳は「3割」で、70~74歳は「2割」、75歳以上は「1割」となっている。誰しも自己負担が少ないにこしたことはないが、安定的な健康保険制度を維持していくためには応分の負担は必要である。
この問題、胃瘻のことなど話題にすると講演会などで多くの方は納得してくれる。ところが総論は賛成でも、我が親となるような一人称のことになると、「できるだけのことをしてください」という話になる。これは偽らざる人間の感情だろう。
私が国立病院機構で働いている時、九州ブロックの医療安全対策委員会の副委員長をしていた。毎月の事故調停委員会でも問題になったケースだったが、昨年その判決が熊本地裁で下っている(新聞記事から)。
案件は「肺炎見逃し死亡させたというもので、病院に賠償を命じる」というものである。肺炎を見逃して女性患者(当時90歳)を死亡させたとして、孫が独立行政法人国立病院機構に損害賠償2350万円を求めた訴訟で、長谷川浩二裁判長は「過失は軽くなく結果も重大だ」として法人側に1210万円の支払いを命じた。
判決によると、患者は2001年11月に息苦しいなどの症状を訴えて国立病院機構熊本医療センターを受診した。気管支炎と診断され帰宅したが、症状が悪化し2日後に救急搬送された。その後別の病院に転院し、約3週間後に死亡した。肺炎から心不全を起こし、急性腎不全になったとされた。
長谷川裁判長は「病院が肺炎などの存在を認めるのが不可能だったとは言えない。積極的な治療がされなかったことで、肺炎と心不全が発症あるいは進行したとみられる」と過失を認定した。熊本医療センターは「最善を尽くしたが主張が受け入れられず残念だ」とコメントした、となっている。
先日の循環器内科の先生方とのヒアリングの時に「高齢者に対する積極的な治療」の問題が話題となった。特に冬場になると毎年インフルエンザの流行があり、それに加えて高齢者の誤嚥性肺炎の患者さんの入院が相次いで病棟は「てんやわんや」の状況になる。当院のような急性期病院では診療報酬上、平均在院日数の短縮が至上命題になっているが、高齢者の患者が多くなると入院期間がどうしても長くなり、救急車などで搬送されてきた救急患者を受け入れられなくなる。病院によっては高齢者の誤嚥性肺炎の患者は入院させないとしている病院もあるようだが、地域の医療機関や先生方との信頼関係を考えると単純に断わるというわけにもいかない。
先生方の意見では、認知症やさまざまな合併症などで積極的な治療を控えた方がいいと判断される場合には、家族によく説明をして納得を得られたら最後の見守りまで搬送される施設で診ていただけたらあり難いという意見だった。
命の大切さに異論をはさむことはないし、その大切さは十分にわかっているつもりである。それでも資源は有限であり、日本の財政事情を考えると事態は深刻である。現役世代の満足は次世代の負担と不幸に通じる。英国やドイツでは、60歳以上の患者は人工透析の保険適用を受けられないのは衆知のことである。ところが日本では、窓口での自己負担は年齢別の割合が定められており、0歳から小学生になるまでの子どもは「2割」(無料化の都道府県も多いが)、小学生から69歳は「3割」で、70~74歳は「2割」、75歳以上は「1割」となっている。誰しも自己負担が少ないにこしたことはないが、安定的な健康保険制度を維持していくためには応分の負担は必要である。
この問題、胃瘻のことなど話題にすると講演会などで多くの方は納得してくれる。ところが総論は賛成でも、我が親となるような一人称のことになると、「できるだけのことをしてください」という話になる。これは偽らざる人間の感情だろう。
私が国立病院機構で働いている時、九州ブロックの医療安全対策委員会の副委員長をしていた。毎月の事故調停委員会でも問題になったケースだったが、昨年その判決が熊本地裁で下っている(新聞記事から)。
案件は「肺炎見逃し死亡させたというもので、病院に賠償を命じる」というものである。肺炎を見逃して女性患者(当時90歳)を死亡させたとして、孫が独立行政法人国立病院機構に損害賠償2350万円を求めた訴訟で、長谷川浩二裁判長は「過失は軽くなく結果も重大だ」として法人側に1210万円の支払いを命じた。
判決によると、患者は2001年11月に息苦しいなどの症状を訴えて国立病院機構熊本医療センターを受診した。気管支炎と診断され帰宅したが、症状が悪化し2日後に救急搬送された。その後別の病院に転院し、約3週間後に死亡した。肺炎から心不全を起こし、急性腎不全になったとされた。
長谷川裁判長は「病院が肺炎などの存在を認めるのが不可能だったとは言えない。積極的な治療がされなかったことで、肺炎と心不全が発症あるいは進行したとみられる」と過失を認定した。熊本医療センターは「最善を尽くしたが主張が受け入れられず残念だ」とコメントした、となっている。
先日の循環器内科の先生方とのヒアリングの時に「高齢者に対する積極的な治療」の問題が話題となった。特に冬場になると毎年インフルエンザの流行があり、それに加えて高齢者の誤嚥性肺炎の患者さんの入院が相次いで病棟は「てんやわんや」の状況になる。当院のような急性期病院では診療報酬上、平均在院日数の短縮が至上命題になっているが、高齢者の患者が多くなると入院期間がどうしても長くなり、救急車などで搬送されてきた救急患者を受け入れられなくなる。病院によっては高齢者の誤嚥性肺炎の患者は入院させないとしている病院もあるようだが、地域の医療機関や先生方との信頼関係を考えると単純に断わるというわけにもいかない。
先生方の意見では、認知症やさまざまな合併症などで積極的な治療を控えた方がいいと判断される場合には、家族によく説明をして納得を得られたら最後の見守りまで搬送される施設で診ていただけたらあり難いという意見だった。
