Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

与論島での難病相談(3)(2015/06/12) 

「夫は胃瘻については仕方ない納得していたと思いますが、気管切開についてはよくわからないまま行われました。のどに穴を開けられて、声も出なくなって非常に戸惑っています。会うたびに、首を絞めてくれ、殺してくれとばかり言っています。私は毎日、朝昼夜と3回来ていますが、それでも足りないようで、帰そうとしません」という。「私も働かなくてはいけませんし、また今後も家で看ることはできません」。
 「ご主人は急にこんな状態になって、自分でも何がなんだかわからずに、パニックの状態かと思います。今後少しずつ受け入れていくと思いますが、今が一番大変な時です。気管切開をしてベッド上で長期療養するには、何か目標になるものが必要です。ある患者さんは子供が高校を卒業するまでとか、娘の結婚式までは生きていたいという目標を持っていました。また何か趣味でもあったら、少しは違ってくるかと思いますが・・・」と話すと、「主人は仕事一筋で、趣味らしいものは何もありませんでした」と答える。
 総じてこの時代の人は仕事一筋で、特に職人の生活では趣味らしいものは持ち合わせないままこの年を迎えるのが一般的だろうと思うことだった。そして「○山さんの場合、現在は気管切開だけで呼吸器は付けていないようですが、今後呼吸器を付けなければならないときが来るかと思います。ご存じのように一度付けてしまうと、本人や家族の希望でも外すことはできなくなります」と話すと、「先生からもそのことは聞いております。主人は呼吸器は付けないと思います、息苦しくなったらどうなるかわかりませんが」。
 20分ほど奥さんと話した後、病室に入った。4人部屋の窓際のベッドに上を向いて横になっていたが、びっくりしたのは首を直角にもたげたまま苦悶様の表情で迎えてくれたことである。ALSでは首を支える筋肉の力が落ちるので「首下がり病」と形容されるようにうなだれている場合が多い。それでもいかにも職人肌の、実直な性格が顔ににじみ出ていた。察するに、〇山さんはいわゆる球麻痺型のALSで、手足の力はまだ保たれているのに嚥下や呼吸、構音機能が先に障害されたのである。
 気管切開しているので声が出せないので、紙と鉛筆を用意してもらった。とりあえず「何でも、思っておられることをお書きください」と話すと、つらつらとしっかりした文字を書き始めた。「遠いところわざわざありがと様です。お仕事とはいえでも、ほんとうにありがとうございます。先生が同じ仕事で、全国でがんばっていらっしゃること、山口さんから聞いております。今後、どのような形でいくのかわかりませんが、先生のご指導をお願いします。 ○山○博」
 原文のままであるが、この文章を読みながら、患者さんとの距離が一気に縮まり、「どうにかしてあげたい」という強い気持ちが私の中で芽生えていった。聞いて見ると、山口さん(徳之島保健所の保健師)とはこれまで何度も手紙でのやりとりをしているということだった。病気のこと、ALSの研究が進んでいること、○山さんの現在の状態、今後予測されること、そして今まで経験した多くの患者さんのことなどを話した。