こころ穏やかな生き方(前)(2015/08/18)
「こころ穏やかな生き方」というのが、PHP8月号の特集のテーマである。せわしなく過ぎていくこの世の中で心穏やかに過ごしていくことは、凡人には極めて難しいことだと思う。そこはやはり年の功とでもいうべきか、97歳の吉沢久子さんのインタビュー「欲張らず、無理をせずに生きる」と、94歳の木村孝(たか)さんの「書くことで自分と対話する」には、それぞれに含蓄のある言葉が並んでいるので紹介したい。
吉沢さんは1918年、東京都の生まれで速記者を経て生活評論家となり、32年前に夫に先立たれてからは一人暮らしだという。これまで大きな病気の経験はなかったが、最近動悸がしたので医師を受診したら「弁膜を取り換える手術をしますか」と聞かれたので、「いいえ結構です」と答えた。「からだが衰えてくるのは当たり前、静かにしている分にはなんともない。昔のようにあちこち出歩けなくなっただけのこと、自然にしていたい」と考えることにした。
また「大変ですね。お寂しいですね」と心配されるが、「大変だと思ったことはありません。一人の今が一番気ままで、心穏やかなんです。大変だったのはどちらかと言えば、夫がいたころじゃないかしら(笑)」。「夫の古谷綱武(文芸評論家)は亭主関白で気難しいところもありました。・・・夫が亡くなって一週間後、大阪へ講演会の仕事に出かけました。終わったときには大雪で新幹線は動かない。咄嗟に私の頭に浮かんだのは『困ったわ。古谷にご飯を食べさせなきゃ』でした。でもね、すぐに気づきました。『そうだ。もうごはんを作らなくていい。無理して帰る必要だってないんだわ』って。その瞬間、気持ちがフワッと自由になりました。・・・」。
これは女性の実感だと思う。そこで、もうずいぶん前の調査結果を紹介したい。
愛媛大学公衆衛生学教室が4年間にわたる追跡調査を「高齢者の死亡関連要因」として、2002年の公衆衛生学会で発表したものがある。60歳から84歳までの3186人(男性1326人、女性1810人)のうち、4年間で亡くなった210人(男性111人、女性99人)について死亡へのリスク要因を分析した(対象者は60歳以上であることで、ちょっとホッとする)。その結果、男性では「糖尿病罹患、煙草の喫煙、過去一年間に入院既往、過去一年間に健診受診せず」とともに、「配偶者がいない」が「いる」に比較して1.79倍も高かったという。ところが女性では有意の差がでた項目は、「配偶者がいる」で、「いない」に比較して55%高かった(老婆心ながら、「男性」と「女性」、「いない」と「いる」を間違わないように。でも「男性がいる」がリスクファクターとは悲しい現実である)。
これらのデータは世間でよく見られる現象でもあり、「男性は配偶者が亡くなると後を追うように亡くなる例が多い。ところが女性は見違えるように元気になり、買い物や旅行にと大忙しとなる」という事実からもよく理解できる。かって私の患者さんで、パーキンソン病のご主人を長いこと介護されている奥さんが時々呟かれることがある。「ほとほと疲れました。お友だちはハワイにと楽しい旅行計画を話されるのに、私は来る日も来る日も介護に追われています」と。
吉沢さんは1918年、東京都の生まれで速記者を経て生活評論家となり、32年前に夫に先立たれてからは一人暮らしだという。これまで大きな病気の経験はなかったが、最近動悸がしたので医師を受診したら「弁膜を取り換える手術をしますか」と聞かれたので、「いいえ結構です」と答えた。「からだが衰えてくるのは当たり前、静かにしている分にはなんともない。昔のようにあちこち出歩けなくなっただけのこと、自然にしていたい」と考えることにした。
また「大変ですね。お寂しいですね」と心配されるが、「大変だと思ったことはありません。一人の今が一番気ままで、心穏やかなんです。大変だったのはどちらかと言えば、夫がいたころじゃないかしら(笑)」。「夫の古谷綱武(文芸評論家)は亭主関白で気難しいところもありました。・・・夫が亡くなって一週間後、大阪へ講演会の仕事に出かけました。終わったときには大雪で新幹線は動かない。咄嗟に私の頭に浮かんだのは『困ったわ。古谷にご飯を食べさせなきゃ』でした。でもね、すぐに気づきました。『そうだ。もうごはんを作らなくていい。無理して帰る必要だってないんだわ』って。その瞬間、気持ちがフワッと自由になりました。・・・」。
これは女性の実感だと思う。そこで、もうずいぶん前の調査結果を紹介したい。
愛媛大学公衆衛生学教室が4年間にわたる追跡調査を「高齢者の死亡関連要因」として、2002年の公衆衛生学会で発表したものがある。60歳から84歳までの3186人(男性1326人、女性1810人)のうち、4年間で亡くなった210人(男性111人、女性99人)について死亡へのリスク要因を分析した(対象者は60歳以上であることで、ちょっとホッとする)。その結果、男性では「糖尿病罹患、煙草の喫煙、過去一年間に入院既往、過去一年間に健診受診せず」とともに、「配偶者がいない」が「いる」に比較して1.79倍も高かったという。ところが女性では有意の差がでた項目は、「配偶者がいる」で、「いない」に比較して55%高かった(老婆心ながら、「男性」と「女性」、「いない」と「いる」を間違わないように。でも「男性がいる」がリスクファクターとは悲しい現実である)。
これらのデータは世間でよく見られる現象でもあり、「男性は配偶者が亡くなると後を追うように亡くなる例が多い。ところが女性は見違えるように元気になり、買い物や旅行にと大忙しとなる」という事実からもよく理解できる。かって私の患者さんで、パーキンソン病のご主人を長いこと介護されている奥さんが時々呟かれることがある。「ほとほと疲れました。お友だちはハワイにと楽しい旅行計画を話されるのに、私は来る日も来る日も介護に追われています」と。
