偉大な「生き残り兵」(後)(2015/08/07)
次は和行になるが、彼のことを書くのはどうも気が重い。
私は昭和59年から14年ほど、彼の主治医という立場にあった。小さいころは仮性肥大も強く動揺性歩行で、デュシェーヌ型筋ジストロフィーを疑わなかった。「痛い思いをさせる筋生検は必要ではないだろう」と施行しなかった。47歳になった現在でも鼻マスク型の呼吸器で呼吸状態が安定しているところから判断すると、結果的には良性のベッカー型ということになり、私の誤診を身をもって教えてくれたことになる。
彼のベッドに行くと、いつも「まだ、生きとっとね。お前が予想をはるかに超えて生きているもんだから、私の誤診を世間に曝す結果になってしまったよ」というようなトンデモナイ会話から始まる。「それって、早く死ねということですか」と鼻マスクの中から、笑顔で切り返す。
それにしても和行でいつも感心するのは、自らの健康管理と穏やかな性格である。今はどうかわからないが、排便の時間など、毎日を規則正しく消化することには徹底していて、とくに便を出すことのこだわりにはあきれるほどだった。「便を出さないと食欲も出ないし、体調が狂うんですよ」という。毎日、数時間もトイレに逗留することは普通のことで、便を出すために、以前はソバを広げるような丸い棒で、腹部を上下に押しつけさせていたこともあった。まさに腸管にへばりついた便をねじり出させるのである。看護師はいつの時代も彼のこだわりに付き合って悪戦苦闘してきた。それでも彼の人柄に免じて頑張ってくれていた。
また3.11の震災後には「テレミン座薬事件」というものもあった。震災の関係でテレミン坐剤の供給が不可能となったのである。「いや、本当に困りましたよ。レシカルボン座薬でいいのじゃないかと言われるんですが、私の場合はテレミンではないと駄目なんです。いろいろ手を尽くしてもらって、青雲会病院の近くの薬局に在庫があることが分かり、母ちゃんに私の代わりに便秘になってもらって、分けてもらっているんですよ」と言う。ここでもこだわりである。
しばらく前に、山田くんから次のようなメールが届いた。
和行が今日はなんと、胃痛で苦しんでいるらしいです。都合がよかったら顔を見に行ってください。ヤツの脳みそはウンコだけかと思ったら、そうでもないようですね(笑)。
あいにく東京のホテルだったのですぐには行けずに、帰ってから顔を出した。
「どうも、盲腸らしいのですよ(胃ではなくて)」と流石に元気がない。主治医に、「アホなカズですがよろしく」と電話した。
またどういうわけか、女性にもよくもてて特に看護学生の人気は高い。おそらくこの写真の女性もその一人かも知れない。彼のベッドは窓際で、私が植えた桜が一番よく見える位置にある。私より長生きして、「桜守」をしてもらいたい。
私は昭和59年から14年ほど、彼の主治医という立場にあった。小さいころは仮性肥大も強く動揺性歩行で、デュシェーヌ型筋ジストロフィーを疑わなかった。「痛い思いをさせる筋生検は必要ではないだろう」と施行しなかった。47歳になった現在でも鼻マスク型の呼吸器で呼吸状態が安定しているところから判断すると、結果的には良性のベッカー型ということになり、私の誤診を身をもって教えてくれたことになる。
彼のベッドに行くと、いつも「まだ、生きとっとね。お前が予想をはるかに超えて生きているもんだから、私の誤診を世間に曝す結果になってしまったよ」というようなトンデモナイ会話から始まる。「それって、早く死ねということですか」と鼻マスクの中から、笑顔で切り返す。
それにしても和行でいつも感心するのは、自らの健康管理と穏やかな性格である。今はどうかわからないが、排便の時間など、毎日を規則正しく消化することには徹底していて、とくに便を出すことのこだわりにはあきれるほどだった。「便を出さないと食欲も出ないし、体調が狂うんですよ」という。毎日、数時間もトイレに逗留することは普通のことで、便を出すために、以前はソバを広げるような丸い棒で、腹部を上下に押しつけさせていたこともあった。まさに腸管にへばりついた便をねじり出させるのである。看護師はいつの時代も彼のこだわりに付き合って悪戦苦闘してきた。それでも彼の人柄に免じて頑張ってくれていた。
また3.11の震災後には「テレミン座薬事件」というものもあった。震災の関係でテレミン坐剤の供給が不可能となったのである。「いや、本当に困りましたよ。レシカルボン座薬でいいのじゃないかと言われるんですが、私の場合はテレミンではないと駄目なんです。いろいろ手を尽くしてもらって、青雲会病院の近くの薬局に在庫があることが分かり、母ちゃんに私の代わりに便秘になってもらって、分けてもらっているんですよ」と言う。ここでもこだわりである。
しばらく前に、山田くんから次のようなメールが届いた。
和行が今日はなんと、胃痛で苦しんでいるらしいです。都合がよかったら顔を見に行ってください。ヤツの脳みそはウンコだけかと思ったら、そうでもないようですね(笑)。
あいにく東京のホテルだったのですぐには行けずに、帰ってから顔を出した。
「どうも、盲腸らしいのですよ(胃ではなくて)」と流石に元気がない。主治医に、「アホなカズですがよろしく」と電話した。
またどういうわけか、女性にもよくもてて特に看護学生の人気は高い。おそらくこの写真の女性もその一人かも知れない。彼のベッドは窓際で、私が植えた桜が一番よく見える位置にある。私より長生きして、「桜守」をしてもらいたい。
