Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

病と闘う自慢の祖母(2015/09/11) 

9月2日、薩摩川内市で重症難病ネットワーク協議会主催の研修会で「ALS」について講演したが、たまたま前日の南日本新聞の「ひろば」欄に掲載されていたALS患者さんのお孫さんの文章が素晴らしかったので、まず紹介することにした。
 病と闘う自慢の祖母    頴娃中1年 奈良響
 僕の祖母はALSというとっても難しい病気と闘っています。だから僕は祖母の声を聴いたことがないし、立ったところも写真でしか見たことがありません。
 このALSの治療法はまだ見つかっていません。呼吸すらできないので、のどに穴を開けて人工呼吸器をつけています。人の手を借りてしか生きられない祖母には、ある秘密兵器があります。それは「伝の心」です。伝の心とは目に光を当てて、瞬きで文字を打って言葉をしゃべります。祖母はこれを命の次に大事だといつも言っています。
 こんな祖母は、現在ALS協会の鹿児島県支部長をしています。そんな大役をなぜ引き受けたのか、僕は不思議で一度、祖母に聞いて見ました。するとにこにこしながら、「伝の心」でこう言いました。「寝たきりで人の力を借りてしか生きれない自分は何か一つでも人の役に立てることができればと思って引き受けたんだよ」という祖母の思いを知り、祖母はすごく精神力がつよいんだなあと思いました。
 また祖母はたくさんの電気を使います。節電が騒がれている今、僕たち一人一人が、「電気をつけたら消す」というちょっとした行動が、地球環境のためだけでなく、祖母のような重い病気の人のためでもあると思います。そんな苦しいことを乗り越えて、今を生きているのが僕の自慢の祖母です。(終)
 孫からの祖母への思いが伝わってくる素晴らしい文章である。祖母はALS協会支部長の伊瀬知さんであるが、この文章を読んだだけでも、伊瀬知が頑張って生きてきただけの価値がある。彼女とは20年来の関係にあるが、さまざまな困難を乗り終えて今がある。人工呼吸器を付けるかどうかは本人も相当に迷ったが、その後の生き方をみると彼女の場合には「つけて正解」だったと誰でも考える。瞬きによるアクセスで伝の心を器用に操作して、多くの人とメールを通してコミュニケーションを図っている。メールだけ読むとびっくりするが、どんな時でも(例えば呼吸器が外れて九死に一生を得たようなときでも)冷静で、ユーモアさえ交えて表現する。人間はたいしたものだと、彼女の生き方を見ているといつも思ってしまう。