Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

睡眠について(後)(2015/10/15) 

ところで最近の研究で、睡眠の作用機序はよくわかってきているらしい。
脳幹部にはいくつかの神経核があるが、睡眠に関しては覚醒の神経核(モノアミン作動性システム、オレキシン受容体)と睡眠の神経核(コリン作動性システム、GABA受容体)があり、相互に綱引きの状態にある。オレキシンが多いと覚醒の状態にあり、逆にGABA受容体が優位になると睡眠の状態になる。
すなわち脳の中で産生されるオレキシンという神経ペプチドが脳の覚醒を司っており、この物質が多いときには覚醒の状態にあり、逆にこの物質が少なくなると眠くなってしまう。シナップスでの化学伝達は一般的にはオレキシンが脳内の受容体に結合して覚醒が保たれるわけだが、受容体を阻害する物質(オレキシン受容体阻害薬)を体外から薬として取り込めばオレキシンの作用は弱くなり、睡眠が誘発されることになる。
そのような目的で製造された薬がスポレキサント(商品名、ベルソムラ)である。
今回の小鳥居先生の講演のタイトルは「生活習慣病と不眠」というものだったが、睡眠と生活習慣病との関係が非常に強いことがよくわかった。それはオレキシンが、睡眠と摂食をつないでいるからである。
食欲を支配するホルモンにレプチンとグレリンというペプチドホルモンがある。レプチンは脂肪細胞によって作り出され、強力な飽食シグナルを伝達し、交感神経活動亢進によるエネルギー消費増大をもたらし、肥満の抑制や体重増加の制御の役割を果たす。一方グレリンは胃から産生されるペプチドホルモンで、下垂体に働き成長ホルモン分泌を促進し、また視床下部に働いて食欲を増進させる働きを持つ。
そして健康な人でも二日間寝不足になっただけで、食欲を抑えるレプチン分泌が減少し、食欲を高めるグレリン分泌が亢進するため食欲が増大する。結果的には不眠は肥満に通じることになる。
さて今回の講演はスポンサーがスポレキサントを販売しているメーカーということもあって、この薬が正常な睡眠と似た形で眠りに導くことが強調されていた。
すなわちスボレキサントは既存の薬剤とは異なる新しい作用機序を有している。覚醒を維持する神経伝達物質であるオレキシンの受容体への結合をブロックすることで、過剰な覚醒状態を抑制し、脳を覚醒状態から睡眠状態へと移行させる生理的なプロセスをもたらす世界初のオレキシン受容体拮抗薬となっている。
スボレキサントはオレキシン受容体阻害剤の中でも、2重オレキシン受容体拮抗薬に分類され、オレキシン1受容体(OX1R)とオレキシン2受容体(OX2R)の両方を阻害する。これまでの睡眠導入剤のほとんどは、脳内の抑制系に働き、覚醒を無理やり抑える形で睡眠を促していた。それに対し、今回のスボレキサントは覚醒中枢の働きを直接抑制することができるので、より自然な睡眠を促すことが可能と考えられるという。
そのため筋弛緩作用やもち越し効果(効果が翌朝以降も持続し、日中のふらつき、眠気などがあらわれる)、前向性健忘(服薬後から寝つくまでの間や中途覚醒時の出来事などが思い出せない)、反跳性不眠(睡眠薬の突然の中止により服用開始前より強い不眠があらわれる)などが少なくて済むそうである。