Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

線虫でがんの診断を(2015/11/04) 

私は姓名に比較的興味があり、患者さんの名前が珍しかったりすると、出身地や由来をつい聞いてしまう。先日のPET健診の結果説明の時のこと、「広津」という姓だったので、「南九州病院の院長の広津先生とは関係はありませんか」と聞いてみたら全く関係はなく、「生まれは山口県の周防大島?です」と言われたような気がする。最近「線虫ががんの診断に役立つ」という変わったニュースは耳にしていたが、この方がその張本人とはもちろん知らなかった。ただ「雑談」がきっかけになって、線虫についての話や当院との関係も知ることができた。
 その広津崇亮(ひろつ・たかあき)先生が、「九州のチカラ(未来を担う人材)」(日経新聞、10月30日)というシリーズで、「がん診断 線虫で革新挑む」というタイトルで紹介されている。もともとは「線虫」の専門家であったが、ひょんなきっかけから「人間の嗅覚を解明する研究のために使っていた線虫をがんの診断に使える」ことに気づかれた。すなわち「人の尿を線虫に嗅がせると、がんの有無を精度よく判定できる」ということを。
現在、がんを調べる腫瘍マーカー検査は数千円以上かかるが、この検査を使うと一回の検査費用は数百円ですむという。その結果、医療費の軽減にもつながることになり、がぜん注目を集めている。
 広津先生は現在43歳と新進の科学者であるが、当院の医療支援課長の吉永君が東京での「次世代がん診断サミット」という研究会に出席した織、当院との臨床共同研究の話も持ち上がったということである。今後の発展が楽しみである。
 どうして「線虫を使って・・・」と誰しも思うことだが、広津先生はインタビューで次のように語っておられる(放射線科医・MRI専門家の高原太郎個人ブログから、一部省略)。
「この大発見は、2年前の、胃内視鏡のエピソードに始まります。伊万里有田共立病院の園田英人先生(外科部長)が、胃痛で来院した患者さんの内視鏡検査をしたところ、アニサキスが胃壁に喰いついているのを見つけ摘除しました。アニサキス症というのは、鯖(サバ)などによく寄生していて、鯖を食べた際に胃の中に入ると、胃壁に食いついて激痛を生じるという、比較的良く知られた病気です。ところがこの症例では「アニサキスの喰いついている部分に早期胃癌があった」という非常に稀な現象が観察されました。園田先生はその後論文を書かれましたが、調べて見ると、それまでに世界でアニサキスが胃癌に食いついていたケースが28回も散発的に報告されていたそうです。注目すべきことに、Stageについて記載があった25例のうち18例がStage I(早期)でした。また腫瘍マーカー(CEA)は、計測された15例中たった1例で上昇してるだけでした。このため、園田先生は、「胃がんからでる『微量の匂い』」にアニサキスが反応しているのではないかと思い、インターネットでこれに関して基礎研究をしている人がいないか調べたところ、ごく近くの九大にいる広津先生がヒットした、という、スゴイことなわけなんです。
広津先生曰く「僕らは、線虫の嗅覚神経を詳しく調べていたのですが、それを一種の『センサー』として使おうという発想はありませんでした。世界の同様な研究者も、こういった発想はなかったと思います。園田先生の洞察力と、広津先生がいままでされていた基礎研究が、奇跡の符合をみた瞬間でした」。