Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

九州医療センターの連携施設として(2015/12/14) 

私は3年ほど前に南九州病院を退官したが、「今回の件」でほど古巣の国立病院機構と九州医療センター、そして村中院長の理性的な判断と勇気に感謝したことはなかった。
 「今回の件」のいきさつを、かいつまんで述べると次のようなことになる。
 2017年度から医師の新しい専門医制度が始まることになり、外科では4つのサブスペシャルティ領域(消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科、小児外科)を備える病院が基幹病院となり、その他の病院は「専門研修プログラム」で基幹病院と連携することで専門医としての経験を積み、専門医として認定される制度である 振り返ってみれば日本の初期臨床研修医制度は、 昭和21年の実地修練制度(いわゆるインターン制度)に始まり、平成16年から新医師臨床研修制度となり、診療に従事しようとする医師は、2年以上の臨床研修を受けなければならないとされた。その結果、臨床研修は大学外の市中の病院での研修が主流となり、いわゆる大学医局の崩壊につながったと分析されている。そこで今回の後期研修医に対する専門医制度改革では、破綻した大学医局制度(特に地方大学)の医師配置での復権を意図しているとの声も多い。
さて鹿児島県での外科系の専門医制度では、鹿児島大学病院だけが唯一の基幹病院となり、当院をはじめ県内でこの制度に参加したいと思う病院は基幹病院との連携が必要となる。そのための手続きとして、まず大学からアンケート調査表が郵送されてきたので、当院でも外科主任部長(副院長)の末永先生が必要事項を書き込んで返送した。専門研修連携施設の認定基準の要件はあらかじめ示されていたので、基準に則っとった選定が行われれば当然ながら認可されるものと考えていた。
11月中旬、待っていた報告が届いた。最初の文面には、4つの外科学教室とワーキンググループでの話し合いによる専門連携施設の選定が行われ、NCD登録症例数が50例未満の施設、NCD登録を行っていない施設は除外されたが、貴院は「協議の結果連携施設参加 可」という文言を読んで安堵した。
ところが、である。「ああ、よかった」とホッとしたのも束の間、次のページには思いがけない記述が書き込まれていた。
・・・貴院より報告を頂いた総NCD登録症例数は2013年670件、2014年730件ですので、2017年に関しましては、貴院の総NCD登録症例の30%あるいは240例で鹿児島大学プログラムに参加していただき、呼吸器外科からの派遣医師がその枠内で修練をさせていただくのが妥当と判断いたしました。ただしこの30%は基幹施設である鹿児島大学新外科専門医プログラムで将来呼吸器外科を目指して修練を行う医師に限定した症例枠です。つまりこの枠は他基幹施設のプログラムに参加されている医師が外科専門医申請に使用できないことを予めご了承ください。尚、他の70%の外科手術症例に関しては、当プログラムへの参加は不可と判断しましたので、貴院の御判断で他基幹施設のプログラムに参加していただきますようよろしくお願いいたします。(原文通り)
何度も読み直さないとその真意は測りかねるが、どうも条件付きの「可」ということのようである。本来この手続きは認定基準さえ満たしておれば、予断なく事務的に選定されるべきものだと考えていた。ところが「他の70%の外科手術症例に関しては、当プログラムへの参加は不可と判断しました」というのである。地域医療の発展を官民一体で希求し、医師不足に悩む鹿児島県の事情を鑑みれば、消化器外科医を目指そうとする医師に、この鹿児島での修練の機会を担保していこうとするのが基幹病院の役割ではないだろうか。
専門研修連携施設の認定基準を満たしていなければともかく、類推するに過去のいきさつを盾に、「不可」という判断には理解に苦しむものがある。一般社団法人日本専門医機構理事長の 池田康夫先生は「公正で透明性ある専門医認定・更新基準のもとに新機構において『専門医の認定』や『研修プログラムの評価・認定』作業を進めたいと思っています」という発言の根幹にも悖るものといえる。
冷静になって視点を変えて読めば、「貴院の御判断で他基幹施設のプログラムに参加していただきますよう」という文言を、ありがたく素直に受けとめることにした。大学人の温かい親心であり、「鹿児島の狭い枠にはまった外科医ではなく、大きな視野に立てる外科医の育成を目指しなさい」という天啓だったかもしれないと思うこととしよう。
それでも当初、当院での後期研修を望んでいる若手の医師にどのように答えていけばいいのか、正直なところ途方に暮れた。連携先を探すにも九州各県で福岡県を除いては、大学病院以外に基幹施設になっている病院はないと判ったからである。
ところが、「念ずれば通ず」ということわざがあるが、何気なしに村中先生に電話したことから大きく道が拓かれた。先生は諸要件を飲み込まれて、何の条件もなく二つ返事で承諾してくれたのである。
国立病院時代、村中先生は九州ブロックの担当理事であり、私は院長協議会の九州支部長をしていた縁もあって、何かと一緒に仕事をする機会も多かった。東京の機構本部での毎月の理事会に私は審議役として参加していたので、九州ブロックの担当理事の先生とは帰りによく羽田空港までご一緒したものである。また九州医療センターでは、「生命倫理」の講演の機会や懇親会まで用意してくれたこともある。それでも辞めて3年近くが経過しており、場合によってはさまざまな圧力も負いかねない状況にもかかわらず、快く引き受けてくれた勇気には感謝の気持ちを表せないほどである。
ところで九州医療センターは国立病院機構の病院としては九州最大(702床)であり、高度総合診療施設として位置づけられている。その理念には「病む人の立場に立って、安全かつ最適な医療を提供します」とうたわれているが、南風の気風とも合致している。
今や鹿児島と福岡は新幹線で一時間ちょっとで行き来ができる訳で、これほど願ったり叶ったりの病院はない(指針では、異なる都道府県の構成も可)。今後この連携を軸にして、様々な分野で相互の交流ができるようになればと願っている。個人的には九州医療センターには旧知の医師も多いし、事務部長の納富さん、看護部長の石橋さんとも親しい仲である。今後九州医療センターで研修ができるようになると、若い医師のモチベーションも更に高まるものと期待できる。中州や天文館で、一杯やれる日も近いかもしれない。