Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

生き心地の良い町(後)(2016/04/15) 

「海部町では赤い羽根共同募金が集まりにくいそうです。隣接する町村では、皆ほぼ同額のお金を入れるのに海部町には『好きに募金すりゃええが。わしは嫌や』と言う人がいます。隣人と連れ立って行動したり、誰かに義理立てしたりしないのです。興味深いのは人と違った振る舞いをしても周囲に特別視されず、コミュニティーから排除される心配もないことが前提にあるのです」
「海部町民の人付き合いは、あっさりしています。穏やかでほどよい距離感を保っている。他人への関心がないわけではなくむしろ強いのですが、関心の度を超えて互いを監視することの息苦しさを知っています」
「病、市に出せという町に伝わる格言を聞いた時、海部町を海部町たらしめている所以を理解するためのパズルの一片を見つけた気がしました。心身の不調を感じたら早めに開示せよ、という意味ですが、『病』は病気だけでなく、家庭内のトラブルや事業の不振など、人生のあらゆる問題を含みます。思い切ってさらけ出せば、妙案を授かるかも知れないし、援助の手が差し伸べられるかもしれない。だから取り返しのつかない事態になる前に周囲に相談せよ、という教えなのです」
 この辺りのバランスのとり方が、本当は非常に難しいことではないかと思う。べたべたした関係ではなく一定の距離を保ちながらも、周りのことに無関心ではない。必要な時には「おせっかい」もいとわない。
「江戸期、この地は木材の集積地として栄え、労働者や職人、商人が大量に流れ込みました。町の黎明期には異質なものを排除していてはコミュニティーが成り立たないし、家柄や職業がどうのこうのといっても取り合ってもらえない。その人に何ができるかを見極める人物本位の評価は、こうした町の成り立ちと関係あるのでしょう」
「集団には、放っておけば均質化する性質がある。メンバーは変な奴だと思われて不利益を被りたくないから同質化し、リーダーも効率を追求するには均質的な組織の方が有利と考えがちです。ただ、均質な組織は硬直化して環境の変化に適応できない危険がある。企業の発展にもイノベーションを生む異能の人材が必要。多様性に富んだ組織の健全性は、海部町が証明しているのではないでしょうか」
 組織の在り方を考える上で、貴重な考察である。第一回日本社会精神医学会優秀論文賞を受賞されたことに納得がいく。
私はずいぶん前に、「師長心得4ヶ条」なるものを書いたことがあった。それは、「むれない、ぶれない、めげない、たやさない」というものだった。この中で海部町民の自律した考え方は、むれない、ぶれないに相通じるものがあるように感じた。穏やかなつながりでありながら、「病、市に出せ」というように、おせっかいではないが共同体として共助の援助を引き出しやすくする知恵、この辺りのバランスが絶妙に行われているのだろう。
また組織は一つの目標に向かってはベクトルを合わせることは大切であるが、個々人の多様性を否定するというわけではない。その辺りもきちんとわきまえておく必要があるが、ここはなかなか難しい。