Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

豊田社長の記者会見から(2016/05/17) 

天下のトヨタと我が病院の経営を比較することは、あまりにも落差があり過ぎてはばかれることだが、参考にはなることは多い。
豊田章男社長は5月11日の決算発表の記者会見で、2016年度は「意志 試される年」と位置付けていた。
2016年度3月決算では、為替の変動が1600億円の増益要因になったとして、「これまでの数年間は『追い風参考記録』だった。風がやみ、等身大の姿が見えてきた」と語っている。「追い風参考記録」という比喩はわかりやすく、よくイメージされた言葉で、さすがに豊田の社長だと感心した。当院にあてはめれば、さしずめDPCの「調整係数」がこれに当てはまることかもしれない。
さてDPC制度は2003年に導入されたもので、それまでの出来高払いの日本の診療報酬の支払い制度を根本的に変えたものである。DPC対象病院は次第に数を増やして、2012年には400床以上の病院の90%以上が対象病院となった。この導入を促進したことの一つに調整係数があったわけで、いきなりDPC制度を導入すると病院の対応が難しく経営的にも厳しくなるので、調整係数を設定して8年間の移行措置を設け、前年度の報酬の水準は守ってあげるという激変緩和措置を行った。今年4月からは3回目の暫定調整係数の置き換えが実施されている(2018年度の診療報酬改定では、調整係数はゼロとなる)ので、年間一億円の減収が予測されている。この減算分は機構評価係数Ⅱで補っていかなければならないが(ちなみに医療機関別係数=調整係数+機能評価係数Ⅰ+機能評価係数Ⅱ)、これがなかなか思うようにはいかない。
さて豊田社長の記者会見に移るが、今年度も為替の変動にもかかわらず微減にとどまり収益を確保できるのは、既存設備の有効活用により「損益分岐点」の改善が進んでいることが背景にある。そして「昨年は『意志ある投資を進める』と話した。今年は意志が試される一年になる」という。
ところで損益分岐点とは企業(病院も含まれる)の管理会計上の概念の一つで、売上高と費用の額がちょうど等しくなる売上高または販売数量を指している。そのため売上高がこの額を超えれば利益が出て、この額を下回れば赤字となる。利益を出すには収益を増やすことだが、それ以上に大切なことは損益分岐点をいかにして下げられるかということである。支出の人件費、材料費、経費を下げる努力をしていかなければならない。
また豊田社長はこのような逆風の中でも、研究開発費と設備投資は増やすだという。「モビリティ(移動手段)そのものが大きな転換点に差し掛かっている」との危機感は強く、「自動車事業の枠に収まらない領域にも種をまいている」という。確かに自動車産業も成熟産業の一つであり、自動車社会の後に来るものに収益構造を少しずつ移していこうという意図がよく感じられる。日本の企業も、シャープ、東芝、三菱自動車などの大企業が、ちょっとした誤算から企業の根幹がもろく崩れいく事実を突きつけられている。
病院もその例外ではない。