突然死への対応(前)(2016/05/12)
私の臨床現場での長い経験の中で、一医師としてまた管理者として最も気持ちを動揺させたものは、想定しない「突然死」であった。病院は本来、病気を治す場所だし、病者も家族もそれをもっとも望んでいる。 ところが病院側には落ち度はなかったにせよ結果的に不幸な結果になったとき、どのように説明すれば少しでも納得が得られるものなのか、正直言ってわからない。ものの本には「検査や手術の場合には、最悪の場合も想定して十分に説明を尽くしておかなければならない」と書かれているが、たとえ説明責任は果たしたとしても、納得していただきにくいのも現実である。
下記に述べるのは、私が南九州病院の院長時代に経験した事例である。医療の世界も次第に殺伐たる時代になりつつあるが、「まだ患者さんと病院との信頼関係が残っていた」と思わせてくれるうれしい出来事だったので、あえて紹介したい。経緯とやりとりを振り返ると、患者さんご家族の深い理解と主治医の誠実で迅速な対応が然るべき好ましい結果に至ったものと理解している。
本来、患者さんのことについては、個人情報を含めて慎重に取り扱わなければならないが、その辺りには十分に配慮しながら、事実を曲げることなく客観的に書きとどめておきたいと思ったのである。なお病歴に関しては、A先生のカルテと、亡くなられた患者さんの奥さんからの手紙を総合して、私がまとめたものである。
亡くなられたのは64歳の男性、ある大手の建設会社の現場監督で定年を迎えられ、郷里の姶良市に帰ってこられていた。2010年11月に「脳梗塞後遺症」との診断書を持って、A先生の外来を受診されている。この他にも、胃潰瘍や境界型糖尿病、軽度の眼底出血があったと記されている。
2011年1月7日に当院を受診されたが、前回(2010年12月3日)の血液検査では血糖値が113mg/dlと少し高値だという以外には異常は認められず、食生活に注意すれば薬を飲む必要はないとカルテには記されている。
次は2ヶ月ほど時間を置いて3月4日に受診されている。診察では特段異常はみられず、「血液検査はないのですか」と聞かれたので、「次回の5月6日でいいでしょう」と返事している。
3月28日に、予約外で受診された。というのは、3月22日の22時にトイレの便器で左胸部を打撲、翌日よりよたよた歩いており、27日に3回ほど嘔吐したというのである。
「今朝から足許がふらついています。脳梗塞ではないかと心配ですので、MRIを撮っていただきたいのですが」という。血液検査の後、(A先生は脳梗塞の可能性は低いと思ったが)念のためにMRI検査を指示した。どちらにしても血液検査の結果が出るまでには一時間はかかるので、その前に胸部写真とMRI検査に行ってもらうことにした。
ところがMRI室から「動いて撮れない」という電話を受けた。外来診察中だったA先生は「絶対に撮らなければならない検査ではないので、無理に撮らなくてもいい」と技師さんに告げたようである。
撮影室から帰ってきた救急室で、「血液検査の結果で血糖値が異常に高い(1156mg/dl)こと、血清のナトリウムが低く(116)、カリウムが高値(6.4)になっていること」を口頭で説明し、意識障害が起きてもおかしくないくらいの数値だから急いで入院するように指示した。ただこの時には血液検査の結果とは相反して、患者さんは気丈で受け答えはしっかりされていたという。
入院後、A先生が動脈血ガス分析のために検査室に行くとき、出口で奥さんに出会ったので「状態が悪いので、急変する可能性もあります」と話して検査室に向かった。検査室で血液ガスの状態を測定している時に、患者さんの様態が急変し、病棟にいた2人の神経内科医で救命措置(気管内挿管や心マッサージなど)を施したが、一時間以上たっても心臓は再び鼓動することはなかった。なおCRPが2.92とやや高値で、PHが7.164と著明なアシドーシスの状態にあった。
私はこの時のいきさつは、翌日看護部長からの報告で初めて知ったが、「余りにも急な展開で、ご家族は納得できていないかも知れない」と案じたのである。
下記に述べるのは、私が南九州病院の院長時代に経験した事例である。医療の世界も次第に殺伐たる時代になりつつあるが、「まだ患者さんと病院との信頼関係が残っていた」と思わせてくれるうれしい出来事だったので、あえて紹介したい。経緯とやりとりを振り返ると、患者さんご家族の深い理解と主治医の誠実で迅速な対応が然るべき好ましい結果に至ったものと理解している。
本来、患者さんのことについては、個人情報を含めて慎重に取り扱わなければならないが、その辺りには十分に配慮しながら、事実を曲げることなく客観的に書きとどめておきたいと思ったのである。なお病歴に関しては、A先生のカルテと、亡くなられた患者さんの奥さんからの手紙を総合して、私がまとめたものである。
亡くなられたのは64歳の男性、ある大手の建設会社の現場監督で定年を迎えられ、郷里の姶良市に帰ってこられていた。2010年11月に「脳梗塞後遺症」との診断書を持って、A先生の外来を受診されている。この他にも、胃潰瘍や境界型糖尿病、軽度の眼底出血があったと記されている。
2011年1月7日に当院を受診されたが、前回(2010年12月3日)の血液検査では血糖値が113mg/dlと少し高値だという以外には異常は認められず、食生活に注意すれば薬を飲む必要はないとカルテには記されている。
次は2ヶ月ほど時間を置いて3月4日に受診されている。診察では特段異常はみられず、「血液検査はないのですか」と聞かれたので、「次回の5月6日でいいでしょう」と返事している。
3月28日に、予約外で受診された。というのは、3月22日の22時にトイレの便器で左胸部を打撲、翌日よりよたよた歩いており、27日に3回ほど嘔吐したというのである。
「今朝から足許がふらついています。脳梗塞ではないかと心配ですので、MRIを撮っていただきたいのですが」という。血液検査の後、(A先生は脳梗塞の可能性は低いと思ったが)念のためにMRI検査を指示した。どちらにしても血液検査の結果が出るまでには一時間はかかるので、その前に胸部写真とMRI検査に行ってもらうことにした。
ところがMRI室から「動いて撮れない」という電話を受けた。外来診察中だったA先生は「絶対に撮らなければならない検査ではないので、無理に撮らなくてもいい」と技師さんに告げたようである。
撮影室から帰ってきた救急室で、「血液検査の結果で血糖値が異常に高い(1156mg/dl)こと、血清のナトリウムが低く(116)、カリウムが高値(6.4)になっていること」を口頭で説明し、意識障害が起きてもおかしくないくらいの数値だから急いで入院するように指示した。ただこの時には血液検査の結果とは相反して、患者さんは気丈で受け答えはしっかりされていたという。
入院後、A先生が動脈血ガス分析のために検査室に行くとき、出口で奥さんに出会ったので「状態が悪いので、急変する可能性もあります」と話して検査室に向かった。検査室で血液ガスの状態を測定している時に、患者さんの様態が急変し、病棟にいた2人の神経内科医で救命措置(気管内挿管や心マッサージなど)を施したが、一時間以上たっても心臓は再び鼓動することはなかった。なおCRPが2.92とやや高値で、PHが7.164と著明なアシドーシスの状態にあった。
私はこの時のいきさつは、翌日看護部長からの報告で初めて知ったが、「余りにも急な展開で、ご家族は納得できていないかも知れない」と案じたのである。
