Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

多系統萎縮症(MSA)(後)(2016/06/06) 

日常の療養生活の状況をお聞きすると、月曜日から金曜日は患者さんの実家が近いのでそこで療養して、土日に自分の家に帰ってくるという。ご両親はともに80歳を過ぎている。「私が働かないですむのでしたら一日中、妻の介護したいのですが、子供にもお金がいるので仕事を辞めるわけにもいきません。一人で家に居た時に、転んで起き上がれずに連絡もつかないことがありましたので、それ以来両親に看てもらっています・・・」とご主人は話されていた。
いつも治療法を聞かれるが、この時が一番つらい。「どこまでもいい治療法を求めて病院回りをしたい気持ちはよくわかりますが、現在のところ、世界中どこに行っても、いい治療法はありません。少しでも有効な治療法が見つかれば、すぐにお知らせできるようなシステムはできています。経過も人によってさまざまで、4年が経って現在の状態なら、比較的進行は緩やかといえます。開き直って、少しでもご本人が有意義に、楽しく生活できる方法を考えてみてはいかがですか」と答えた。本音では多少のリスクを覚悟して、介護サービスなど利用しながら自分の家で暮らされた方がいいのではないかと考えていた。また「もし、パソコンなどが利用できたら、お子さん方に自分の思いや考えを紙にして、残されておかれてはどうですか」と付け加えた。おそらく数年したらそのようなことも叶わなくなるだろうから、将来子供たちが生きる上でのよすがにでもなればいいと思ったが、さすがに単刀直入には言い出しかねた。
もう一例は、患者さんは50歳代前半の男性であるが、現在精神科の病院に入院中のために奥さんと、患者さんのお姉さんの二人が相談にみえられた。患者さんは最初の奥さんとの間に二人の子供があったが離婚され、この女性と縁を持ったようである。この40歳代半ばであるが、4年前に見合いで結婚されたという。相手の男性がパーキンソン病であるということは知らされていたが、「パーキンソン病だったら治療法もあるというし、10年位は一緒に暮らせるかなと思いまして・・・」と言われる。
ところが抗パーキンソン病薬の効果がなく、MSAという診断に変わり、その後妄想が強くなって精神病院に保護入院となったのだという。
「義妹には本当に申し訳なく思っております。優しい人で、父の看病もよくしてもらいました」とお姉さん。「病院を退院できたら、主人を家で看ていきたいと思っているのですが」と奥さん。
相談が終わってから陪席してくれていたセンターの看護師さんと、「世の中には、やさしい人もいるもんだなあ。でも見合いした時の診断がMSAとわかっていたら、結婚に踏み込んではいなかったのではないだろうか」と話すことだった。MSAの初期はパーキンソン病と診断される例は多く、薬の効果がなかったり、さまざまな症状が出現して結果的にMSAと診断されることは多い。ただこの女性は相談の間もずっと冷静で、やさしそうな性格が言葉の端々や表情からも汲み取れた。世の中には凄い、普通の人がいるものである。