Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

サイレント・マジョリティー(もの言わぬ大衆)(2016/11/11) 

11月10日の朝刊は、「米大統領トランプ氏」という大見出しとともに、「米国再生、異端に託す」「社会分断、危うい大衆迎合」「現状の拒絶、奔流に」などの小見出しが並んでいる。小泉元首相の「人生には上り坂、下り坂、まさかの三つの坂がある」という言葉は有名であるが、「まさか」が現実のものとなったのである。
 冷静に分析すれば、アメリカで我慢の限界に達した低中所得の白人層が主流派(エスタブリッシュメント)に見切りをつけたことだろうし、「トランプは庶民の弱みに付け込んで、偏狭なナショナリズムの封印を解いてしまった」というアメリカの政治学者のフランシス・フクヤマ氏の分析もうなずける。
 アメリカは広大で、人種や考え方も多様な国だと言われている。その中で、中西部を中心にした「サイレント・マジョリティー(もの言わぬ大衆)」と言われる州がある。今回の大統領選挙の結果を色分けすると、フロリダから南部、西南部、中西部の南半分を経てネバダまでアメリカ大陸の中心部(ミネソタ、コロラド、イリノイ、ニューメキシコを除く)をトランプの獲得した赤い色が占拠し、そのへりにはりつくようにニューヨーク、マサチューセッツなどの東海岸と、カリフォルニア、オレゴン、ワシントンの西海岸がクリントンの青色となっている。この赤色のサイレント・マジョリティーこそが共和党の地盤であり、トランプ支持の基盤だったといえる。
 私は1980年にミネソタ州のロチェスターにあるメイヨー・クリニックに留学した。この街はミネソタ州でもアイオワ州に近い田舎町であるが、人口8万人ほどの大半はメイヨークリニックに関係する人たちで占められていた。ミネソタ州は1975年から82年にかけて日本でも放映された「大草原の小さな家」の舞台になったところで、このドラマは西部開拓時代の開拓移民の家族愛を描いたものだった。今回の選挙でも中西部は軒並みクリントンの赤い色であったが、ミネソタ州はクリントンの青色になっていた。この州は伝統的に民主党の地盤で、かつてはカーター大統領のもとで副大統領を務めたモンデール氏(日本の駐米大使も歴任)の地元でもある。ドイツや北欧からの移民が多く、市民の意識は高く、投票率もアメリカでもっとも高いと言われている。
 私が留学したころはベトナム戦争の余波がまだ色濃く残っており、ベトナムからの難民が各州に振り分けられて、私の子どもたちも難民とよく間違えられたものである。
 驚いたことの一つに、アメリカの多様性というか、日本から見るアメリカはクリントンを支持したアメリカであり、ニューヨークやカリフォルニアである。ところが中西部に住んでいてそこで暮らしてきた人にとっては、東部やカリフォルニアでの出来事は自分たちとは全く関係のないことと考えており関心もなかった。ニューヨークなどには一生に一度行けばそれでよしと考えていたようで、当時の鹿児島のおのぼりさんと同様な感覚に近かったのではないだろうか。トウモロコシや小麦の発育、牛や馬などの家畜の生育に関心があっても政治には無関心だったと言える。いわゆるサイレント・マジョリティーの集団である。おそらく今回の選挙結果をみると、このような人たちが厳しい環境に置かれ、現状への不満から投票所に足を運び、トランプの政策などとは関係なく赤を選んだものと思われる。