Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

寅さん状態(2016/12/15) 

川井先生(国立病院機構 東埼玉病院 院長)の突然のご逝去(2016年9月23日)から、いつの間にか3か月が経とうとしている。ひょっこり現れて、あの笑顔で話しかけられそうな気になる。いつも理論的な話の筋道のできる人だったが、性格的には強面ではなくソフトな印象だった。
        川井先生の東大の後輩で、筋ジストロフィー関係の研究を長年一緒にされてこられた本吉先生(国立病院機構下志津病院)から、当時もらったメールを読み返しながら「やっぱりそうだろうな」と、複雑な思いを抱いている。
        (本吉先生が)葉山ハートセンターに御一緒させて戴いた折,鎌倉の御自宅にお電話したところ,先生と同じ声で「川井充は居りません」との御返事。実際には前日の夜に帰宅されていたのですが,御子息にとつてはいつも不在の「寅さん状態」だった様です。
        「同じ声」という部分にも苦笑するが、「寅さん状態」という表現には、「いずこも同じだったのか」とちょっと複雑な思いも交錯する。
もう随分昔のことになるが、「亭主元気で留守がいい」というコマーシャルがテレビから盛んに流されたことがあった。調べてみると、1986年防虫剤大日本除虫菊〔株〕『タンスにゴン』のテレビCMから生まれたフレーズで、この年の新語・流行語大賞の流行語部門で銅賞を受賞している。夫婦の間柄において、夫は家にお金を入れるだけで良く、常日ごろ家にいない方が妻にとって都合が良いということを意味する言葉である。ただ時が過ぎ、現在の状況はだいぶ変わって来ている。就労形態が多様化し女性の社会進出も進んだことで、夫は企業戦士として会社三昧(ざんまい)で妻は家庭で内助の功といった構図は必ずしも当てはまらなくなってきている。        「寅さん」状態とは「放浪生活ではないが、家を不在にすることが多い」という風に解釈できよう。川井先生も気さくで人の頼みを断れない性格だったので、ついついいろんなことに顔を出し、家を不在にされることも多かったのではないかと推察する。私にも「鎌倉に来られたら案内します」という約束も果たされないまま、あの世に旅立ってしまった。
もう20数年年ほど前のことになるが、井形先生の奥様から私の家内に電話があったそうである。(先日から、井形先生のにこやかな笑顔の額に入った肖像を机の前の壁にかけてある。ちらっと横目で見ると『先生も苦労しているなあ、早くこっちに来いよ』と言ってくれていそうだが、もうちょっと待ってもらいたい?!)。家内と井形先生の奥様とはさほど親密な関係ではなかったのだが、「井形の居場所をご存知でしたら・・・」という電話だった。おそらく急用ができて連絡を取りたいのだが、現在どこに出張しているのか、把握されていなかったということだろう。当時、私も出張が多く家を留守にしがちだったので、「せめて、どこのホテルに泊まるかぐらいは言ってから出かけてくれないと」と、ここぞとばかり家内から嫌味を言われたことがあった。でもそれ以降も、出張の時にホテル名を行ってから家を出掛けることはほとんどなかった。現在では携帯電話やスマートフォンがあるので連絡を取れないことはないが、当時はまったく探しようがなかったのである。         まだ「寅さん状態」にこだわるが、男には全てのくさびから離れて、チョウチョやトンボのように気の向くまま好きなところに飛んでいきたいというような願望のようなものがあるような気もする。しかしそれは現実の生活では難しいことで、寅さんシリーズが長い間続いた背景には、人間のこのような願望をちょっとの時間、寅さんを通して実現させてくれたからではないだろうか。