Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

運鈍根(2017/04/28) 

PET(ペット)検診での結果説明のひととき、お相手は小正さん、鹿児島では名の知れた焼酎の醸造元である。同じ団塊の世代で時代を共有していることもあり、話が弾む。甲東中学から中央高校に進まれたそうで、一緒について来られた奥さんとは大学時代に古木圭介さんの主催したユースホテルの海外旅行が縁だという。ちなみに、奥さんは札幌の出身とか。あの時代には、安いユースホテルを使っての国内旅行や海外旅行が流行ったものである。
       焼酎業界のこともよくご存知で、一昨年亡くなった家内の叔父の相良酒造の栄二さんとも交友があったという。「私の父の世代ですが」ということだった。
       その栄二さんは「幻の焼酎」といわれるものを造りたいと常々話していたが、文字通り「幻」となった銘柄に「運鈍根」という銘柄がある。先日、婿が鹿児島に来た時に、この「運鈍根」が欲しいということで探して回ったが、どこにも置いてなかった。
       「この焼酎は亡くなった実叔父さん(歯科医で家内のお祖父にあたる)が、よく運鈍根という言葉を使っておやした。今回、黒こうじでいい焼酎がとれたんで、この名前を付けてみもした」と話していたことを思い出す。でもこの焼酎と同じ味わいの焼酎ができなくて、結局この『運鈍根』は1万本限定の文字通り『幻の焼酎』になったそうである。
       その「運鈍根」のラベルには、「相良酒造の丹精込めて造った黒こうじ焼酎を皆様にお届けします。古事曰く、物事を成功するには三つの要素として『運(運を掴むこと)』、『鈍(焦らないこと)』、『根(根気よく続けること)』の心が必要だと云われます。この心を持ち続ける日々のためにも、やはり一刻のくつろぎを持ちたいものです。『運・鈍・根』を友として、ある時は笑い、ある時はグチをいい、明日への希望等を話すのは如何でせうか」と書かれていた。
       ところでこの「運鈍根(うんどんこん)」は、一般的には運根鈍の同義語とされており、先日辞任した日本将棋連盟専務理事の田中寅彦氏の扇子の揮毫も「運根鈍」である。タイムレコーダーの「アマノ」の創業者である天野修一氏は、「鈍根運」という造語を作り、自社の社訓にしている。日経新聞に掲載されたものから引用すると、「鈍」は愚鈍を表すのではなく、正直さや人格尊重など「正しい行為」を表す。「根」は「ゆるみなき努力」のことで、仕事に対する愛情や研究向上心にも通じる。「運」は「めぐまれる幸運」。寝て待つという意味ではなく、「鈍」「根」をよく実行したときに「運」は開け、ゆたかな心や生活が実ることだという。