Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

リーダーについて(2)(2017/09/26) 

さて今回の宿泊研修では私は30分の「講話」という時間をもらっていた。そこでタイトルを「リーダーシップと人間学~恩師を思い浮かべながら~」とした。リーダーシップといってもどうしても抽象的な言葉の羅列になってしまうので、私の人生で出会った上司を何人か紹介することで、そのイメージを若いスタッフに描いて欲しいと思ったのである。
 まずリーダーシップとは、人それぞれの生き方の問題で、リーダーは自らの行動の中でその積み重ねの結果として成るものである。リーダーシップは本を読んで習得するものでも、だれかから教わるものではない。それは私たち一人一人が、自分の生き方の中に発見
 するものである。結局、好ましいリーダーとは魅力的な人間であることになる。
 そして人の能力は、①専門的能力、②マネジメント能力、③人間的能力の三つに大別できる。初めから全ての能力を兼ね備えた人はいないわけで、それぞれ年齢を重ねるにつれて、努力して身に付けていくものである。40歳代までは専門的知識の習得、30歳代頃からマネジメント能力を、そして人間的能力はおもに40歳代以降に培われていく。
 先日PET健診で、私と同じ歳で、中卒後に上京して左官の仕事を続けられているという職人さんの話を「なるほどな」と思いながら聴いていた。「私が55年間この仕事をやってきて思うのは、もちろん仕事の腕も大切ですが、やはり人間性ですね。仲間とうまくやっていけない職人は大成できません」と言われた。
 そして人は誰しも場所を替わりながら長い人生を歩むわけだが、渡辺和子さんの著作のタイトルにもあるように「置かれた場所で咲きなさい」という言葉を胸に刻み込むことが大切である。私もいくつかの病院を経験してきたが、幸いにもいい師に恵まれて楽しい医師生活を過ごすことができた。
 私は昭和47年に医学部を卒業して研修後、48年に第三内科(井形教授)に入局し、翌49年に東京都立府中病院に出張となった。そこで出会ったのが井形先生の恩師にもあたる宇尾野先生だった。先生は戦前、学習院から陸士を卒業して戦線では高射砲の名手だったと聞いたことがある。終戦後、厳しい競争を勝ち抜いて東大医学部に入学、そして沖中内科に入局されている。見るからに紳士の先生で、医師としての身だしなみなど躾けられた。先生と一緒に過ごした期間は2年間と短かったが、先生が同じ国立病院の院長になったこともあって、静岡に講演に呼ばれたり、何かと目をかけてもらった。
 私が最も影響を受けたのは、なんといっても井形先生である。先生は人間としても素晴らしく、全てを兼ね備えた理想の上司像と言える。医局員みんなが「私の井形先生」という思いだった。
 荻夕徂徠の「上役の心得」というものがあるが、これをすべて具現されていたように思える。
 ① 人の長所を始めより知らんと求むべからず。人を用いて始めて長所の現わるるものなり。
 ② 人はその長所のみを取らば、即ち可なり。短所を知るを要せず。
 ③ 己が好みに合う者のみを用うる勿れ。
 ④ 小過をとがむる要なし。ただことを大切になさば可なり。
 ⑤ 用いる上は、そのことを十分に委ぬべし。
 ⑥ 上にある者、下にある者と才知を争うべからず。
 ⑦ 人材は必ず一癖あるものなり。器材なるが故なり。癖を捨てるべからず。
 ⑧ かくして良く用うれば、事に適し時に応ずる人物は必ずこれあり。