Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

思いがけない死(後)(2017/09/20) 

ALS患者が呼吸器の装着を悩む理由に、一つは家族に迷惑をかけてしまうということと、もう一つが「寝たきりで、社会に対してもなんにも役に立てない」ということがある。ところがこの小文(病と闘う自慢の祖母、頴娃中1年 奈良響 南日本新聞:2015年9月1日。ひろば欄)を読むと、伊瀬知さんが生きているというだけで、「孫の教育」にもどれほど大きな役割をされてきたかがよくわかる。お孫さんがちゃんとお祖母ちゃんの背中を見て育ったのである。
 僕の祖母はALSというとっても難しい病気と闘っています。だから僕は祖母の声を聴いたことがないし、立ったところも写真でしか見たことがありません。このALSの治療法はまだ見つかっていません。呼吸すらできないので、のどに穴を開けて人工呼吸器をつけています。人の手を借りてしか生きられない祖母には、ある秘密兵器があります。それは「伝の心」です。伝の心とは目に光を当てて、瞬きで文字を打って言葉をしゃべります。祖母はこれを命の次に大事だといつも言っています。
 こんな祖母は、現在ALS協会の鹿児島県支部長をしています。そんな大役をなぜ引き受けたのか、僕は不思議で一度、祖母に聞いて見ました。するとにこにこしながら、「伝の心」でこう言いました。「寝たきりで人の力を借りてしか生きれない自分は何か一つでも人の役に立てることができればと思って引き受けたんだよ」という祖母の思いを知り、祖母はすごく精神力がつよいんだなあと思いました。・・・
 この響君は現在中学3年生で、直美さんの次男である。直美さんの告別式に参列した里中さんの話によると、「直美さんが姿かたちも性格も、お母さんに一番よく似ておられます。隣に住んでいたので、毎日のお母さんのお世話の大部分をされてこられたようです。優しいお人柄で、告別式には多くの方が参列されていました。響君の『お母さんは運動会に来てくれない』という言葉が涙を誘いました」。
 ご主人も事故の後に病気がちであり、今後のケアを考えると頭を抱えてしまう。地域の支えと残された二人の娘さんの協力、有効な社会資源も借りながら、そして里中さんを先頭にALS協会鹿児島県支部も総力を挙げてサポートしていくと思う。