Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

しつけや作法(2017/11/21) 

日ごろの「しつけや作法」のなかでも、もっとも簡単に思えて実は難しいのが「挨拶」ではないだろうか。先日の管理者研修会で話題に上ったことの一つに、職員間や患者に対する挨拶がよくできていないということだった。
 社会は「挨拶に始まり挨拶に終わる」と言われている。初対面での相手の印象が良いかどうかの目安は、まずは「笑顔でいい挨拶」ができるかどうかである。勿論、初対面だけでなく何度も出会う人にも、たとえ親しい間柄でも日常の挨拶は大切である。
 もう随分前のことになるが、Viewの会(筋ジス患者さんを中心にした会)で前NHKアナウンサーの鈴木健二さんに講演をお願いしたことがある。講演の中でも鈴木さんは、挨拶の仕方を実演を交えながら教えてくれた。ところが筋ジスの患者さんでは、頭を前に45度も傾けると自分で元の位置まで戻せる患者さんは少ないのでさすがの鈴木さんもあわてていたようである。その鈴木さんを私は玄関で出迎えたのだが、いつものように頭を下げていつものように頭を上げたら、鈴木さんはまだ頭を下げたままだったので、私はあわててもう一度下げ直したものだった。
 通販で「山折哲雄講話集」を買い求めて車中で聴いている。その第6巻、「背中はあたたかいか」の項で、面白い話が紹介されている。
 山折さんは京都住まいで、ある時、東京から来られた人とホテルで会う約束をされていた。散歩に夢中で約束の時間に遅れてホテルに着くと、その方はホテルの入り口に立っておられた。恐縮して頭を下げて詫びると、にこやかに笑みを浮かべながら「出迎え三歩、見送り七歩と言いますからね」と答えたという。
 さてその方とお別れするとき、山折さんは「ここで結構です」と言われたが、やはりその方は「そこまでお見送りしましょう」とホテルの外まで出てこられた。そして私の背中をずっと見送っていたに違いないと感じたという話である。
 私にも似たような経験を思い出した。南九州病院に勤務していた頃、隼人駅近くで開業されておられた原口先生のご自宅を訪問したことがあった。先生は80歳を過ぎた外科医であるが、お人柄そのままに丁寧に応対していただき、帰る時に玄関の外まで見送ってくださった。私たちは車に乗り込んでそのまま立ち去ったのだが、車の中から何気なしに後ろを振り返ると先生はまだ頭を下げておられて、恐縮してしまった。
 また同じ項で「医者の背中、街行く人の背中」にも触れておられる。
 山折さんの自らの入院体験から、「医師が病室から去る時の背中は大体いつも冷たく感じられるが、時々あたたかく見える時がある。それはたった一、二分の会話で、その内容で温かく見える時とそうでない時がある」と書かれている。
 私が第三内科に入局した時の上司だった永松先生の言葉も、頭に焼き付いている。
 「医師は患者さんの枕元に、朝と夕方、一日二回は訪問しなさい」と言われていた。神経内科の患者さんのような慢性疾患と急性疾患では異なることかと思うが、ベッドサイドで「どうね」と一言、声をかけるだけならそんなに時間を要することではない。私は主治医として患者を持っていたときには、土日や出張の時にも、永松先生の教えを守って可能な限り朝夕の挨拶は欠かさないことにしていた。
 もうずいぶん昔のことになるが、2003年に発行された「日本の名医30人の肖像~こんな先生に診てもらいたい!~」という本で、日野原先生や鎌田先生、黒川先生など錚々たる先生方と一緒に紹介されたことがある。ちょっと気恥ずかしくなるが、これも診断や治療の技量の高さからではなく、患者さんとの挨拶などを含めた「間の取り方」ゆえだったかと思っている。