Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

抜粋のつづり(2018/02/14) 

金庫に縁のない私でも「クマヒラ(熊平)」という会社名は知っていた。先日、鳥居さんが一冊の本を机の上に置いてくれていた。「抜粋のつづり その七十七」というB6判の小さな冊子である。そういえば、南九州病院でもこの同じ冊子が毎年、配られていたものである。
 2月1日の日経の文化欄に「珠玉の随筆無償で配布」というタイトルで、宮脇保博さん(熊平製作所元管理部長)という人が随筆を寄稿されている。この小冊子は1931年から毎年一冊ずつ出版されており、80年の歴史があるという。「なぜメーカーが冊子を」と思われるかもしれないが、一代で国内有数の金庫会社を築いた創業者の熊平源蔵の思いから始まったのだという。
 源蔵は小学校しか卒業していないが、幼少時から本に親しみ、感銘を受けた文章をスクラップしていた。「自分の手元だけに置いておくのはもったいない」と思い立ったのが冊子作りの始まりだという。編集責任者である編集人は80年代半ばまでは地元の中国新聞の元記者が務めていたが、2009年からこの随筆を寄稿している宮脇さんが引き受けているのだという。
 選定は毎朝、新聞に目を通すことから始まる。全国紙5紙と地元紙、「暮らしの手帳」などの月刊誌を毎月20冊、さらに源蔵が仏教に関心を寄せていたことから「禅の友」など宗教の専門誌から選んでいるのだという。選定基準は生きることの喜びや希望を覚える感銘深い文章かどうかだという。
 ちなみに今年の冒頭のページは山中伸哉さんの「塞翁が馬」「おかげさま」(毎日新聞医療福祉面)である。宮脇さんによると、転載の承諾をとるために版元や筆者と連絡を取ることになるが、これがもっとも骨の折れることだそうである。ちなみに山中先生は快く承諾されたそうである。
 毎年45万部を発行し、官公庁、金融機関、病院などに郵送し、年間4千万円を計上し続けてきたという。「仕事を通して社会に奉仕・貢献するという創業者の理念を継承していきたい」という言葉で終わっている。