Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

歩数(1)(2018/03/05) 

2月の歩数(実は「その場足踏み」で稼いだ歩数が大半だという説もあるが)を羅列してみると一日14000歩から18000歩(日曜日には25000歩)も歩いており、「よく歩いたものだ」と我ながら感心する(我以外の多くの人はあきれてしまうかも)。何かの目に見えないものから促されているように、足を動かしておかないと不安になりそうな心持で、歩数を数えていたように感じている。
 私がところ構わずせわしく足を動かしている姿を見て、口の悪い女性は「マグロのようですね」と揶揄する。マグロなどの大型回遊魚は、広い外洋を常に泳ぎつづけていないと死ぬそうである。その理由は、外洋ではエサが豊富でないため、エサを探して動き回らなければならない。 大きな体で動き回るには大量の酸素が必要で、とてもエラ呼吸だけでは足らない。そこでマグロは酸素を取り込むため、口を開けたまま泳いで海水中の酸素を取り込めるようにしているのだという。もっとも私はマグロではないのでちゃんと肺呼吸ができるのだが、2月はマグロ化していたともいえるかもしれない。
 佐伯泰英氏と言えば、数々の人気シリーズをかかえ、「月刊佐伯」の異名をとるほどのハイペース(ほぼ20日で文庫1冊分を書きおろしているという)で作品を発表する人気時代小説作家である。NHKの木曜時代劇『陽炎の辻~居眠り磐音 江戸双紙~』として、ドラマ放映され、毎週楽しみにしていた。その他のシリーズも読み始めると面白いのでついはまってしまう。「残り少ない人生を浪費する」のはつまらないと考えて、あえて佐伯作品には近づかないようにしている。
 その佐伯氏が日経のプロムナード(2月19日)で、「76歳の春」というタイトルで随筆を書かれている。76歳という年齢にも驚いたが、私的には非常に面白かったので導入部分を紹介したい。人間、同じ文章を読んでも、その時々の興味の持ちようで熱の入れ方が大きく違ってくる。この文章は、私の思いと生活の一部を代弁して、その場足踏みも正当化してくれていて、「我が意を得た」との思いで快哉を贈りたい。秘書の鳥居さんにも、得意げにコピーして見せてやった。
 白い船体のフェリーが相模湾を行く。熱海・初島間を結ぶイルドバカンス・プレミア号だ。昼下がりの2時10分、私はその刻限になると、2階のベランダ(雨天体操場と称している)に出て足踏みを始める。出航の合図から5,6分後、熱海港を出た船が姿を見せる。ドスンドスンと音を立てて足踏みを続ける。一日一万歩の実践者だ。この数字に意味があるのかないのかも知らない。飼い犬みかんとの朝の散歩で3500歩ほどの「貯金」がある。
 この数字と夕刻の散歩では一万歩に届かない。ゆえに気分転換をかねて足踏みを毎日なす。なぜそんなことを、と疑問の読者諸氏もおられよう。この19年に文庫描き下ろし時代小説を240巻上梓してきた。偏に体調を維持してきた成果だ。大酒を飲まない、早寝早起き夜更かしはしない、付き合いは避ける。決まりきったふだんの暮らしを繰り返す。職人作家が守るべき務めと私は心得ている。それで面白いのか、と問われれば作家の暮らしは「こんなものだ」と答えるしかない。編集者との付き合いは、仕事上の連絡を別にして絶無だ。・・・