Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

ぶどうと医療相談(2018/09/18) 

難病相談・支援センターでのひととき、この日は予約が入っていなかった。ところが午後2時過ぎに「大迫さんから、今から来てもいいですか」という電話が入った。
   「ひょっとして、庭のぶどうでも持って来てくれるつもりかな」と思いながら、待つことにした。
   昨日(9月17日)は敬老の日だったが、難病を抱えながらも、普通に自然に幸せそうに暮されているご夫婦もいる。
   大迫さんは現在79歳、パーキンソン病で南九州病院時代から私の外来に来ておられていた。南風病院に移ってからも月に一回来られていたが、症状が安定しているので近くの病院に紹介した。ところがしばらくして、また舞い戻って来た。
   今年の夏ごろ、「デイケアに行っているところで、専門の先生が月に一度診てくれるということですので、そちらにお願いしたいと思いますが」ということになった。そこの病院では長期の入院も可能なので「今後のことを考えると、その方がいいと思うけど。何か相談があったら、家も近いのでいつでもセンターの方に来たらいいよ」と私も賛成して、ここ2か月ほどは南風病院には来ていなかった。
   3時過ぎ、84歳のご主人に伴われて、ゆっくり歩きながら相談室の椅子に腰を下ろした。二人ともいい笑顔で、申し分のない在宅療養生活をされている。ご主人は定年まで市役所に務めておられたが、現在は生家の小山田で、家庭菜園をしているという。「今年、免許の更新を済ませました。そろそろ返納しないといけないのですが、やはり車がないと不便で・・・慣れた道ならまだ大丈夫です」「菜園では何を作っているんですか」と聞くと、「唐イモなどは猪にやられますので、もっぱら日常食べる野菜などです」。「家では毎朝、新聞を隅々まで目を通しています」。一緒に56歳の娘さんも同居しておられるが、「お母さんは元気にしていてもらわないと、私は定年まで働くから面倒をみれないわよ」と言われているんですよと、笑いながら大迫さん。
   現在、週に一回だけデイケアに行かれているそうで、「介護保険では2回行けるんですけど、夫を一人にしておくのも心配で」と言われる。
   簡単な神経学的な診察をするが、歩行が前傾になっているほかは、さほど進行していない。寝ている時に夢を見て「大声」を出されるそうだが、幻覚や幻聴はなさそうである。
   「この病気は毎日の生活のリズムが最も大事ですから、崩さないように。後は誤嚥による肺炎と転倒による骨折だけに気を付けられたら、まだまだ元気に過ごされますよ」と話すことだった。
   そこで「ぶどう」のことである。
   このぶどう、随分前に甲突川河畔の木市で買ってきて、車庫の隣に植えたそうだが、大きくなり、毎年たくさんの実をつけるので近所の人ももらいに来るそうである。私の所にもここ2,3年ほど、診察に来るたびに持って来てくれていた。大きくはないがいい味がしたので、「美味しいぶどうだね」とほめていた。
   相談が一段落したところで、紙袋から2房のぶどうを取り出された。「先生には一番いい所を持ってきました」と大迫さん。お父さんは「袋を掛けないといけないのですが、足腰が不安定になって、高い所の房にはかけられなくなりました」と。
   家に帰ってから冷やして食べたが、新鮮で実に美味しかった。「来年もまた持って来てね」と頼んだ。今日来られたのは「医療相談」ではなくて、きっとブドウを持ってきてあげようと思ったのだろう。