Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

天空の村で暮らす人々(2016/02/10) 

その時の年齢や住んでいる場所、そして仕事の内容でその人の生活習慣はかたちづくられて行く。私は土曜日には、いつもの時間に病院に出かけて、NHKテレビ「小さな旅」をその場足踏みをしながら観ることにしている。
この「小さな旅」は「日本各地の美しい風景と、その風景によってはぐくまれる人々の日々の豊かな暮らしを旅人が紹介する」という企画で、旅人は国井雅比古アナウンサーと山田敦子アナウンサーが交代で務めており、この日は山田アナウンサーだった。
「天空の村で暮らす人々」というタイトルで、徳島県つるぎ町という山の急斜面にへばりつくような村で、段々畑のような耕作地で仕事をする70歳前後の老夫婦の生活をていねいに描いていた。
その耕作地は30度にも達する急斜面で、アナウンサーの山田は息を切らしながら途中から杖をかりて登っていた。ソラと呼ばれているそうだが、山から吹き下ろす「剣山おろし」に包まれたような耕作地を、雨や風で土砂が滑り落ちないように自生したカヤを敷いたり、サラエという特殊な鍬で土壌をすくって上げ戻す作業をしながら、額のような狭い農地に大根などの野菜を栽培している。
仕事の合間に二人で座って、「死ぬまでここで住んで暮らしたい。野菜は美味しいし・・・」としみじみと語る。夫婦の先祖は約150年前に移り住んで森を切り開いた。集落では昔はたばこ栽培で稼いでいたが、たばこが下火になると周囲の住民は減っていったという。番組では夫妻の子供たちのことには触れていなかったが、恐らく都会に暮らして正月などに帰省するぐらいだろう。あるいは、「一緒に暮らそう」という子どもたちの誘いを振り切って、ここに住み続けているのかも知れない。元気な時はいいけど、病気にでもなったらどうするのだろうかと、いらぬ心配までしてしまう。
このテレビ番組を観ながら、私が住んでいた半世紀以上前の田舎の暮らしを思い出したり、日本全国、今や荒れ果てた耕作地はどこにでも転がっているのに、どうしてこんな不便なところに執着しなければならないのかと思ったりする。
効率化優先の世相に一石を投じるような番組だが、老夫婦の幸せに満ちた「いい笑顔」を見ていると、人間の幸せ感とはそれぞれなのだろうと思うことである。