Blog前南風病院院長 福永秀敏先生の雑感

拙文を読んでくれて(前)(2016/06/17) 

最近、五木寛之の「語りおろし全集」のCDを車の中ではいつも聞いている。その中のくだりに、「学校の現代国語などの試験問題を見ますと、文章があって『ここで作者が言いたかったことに丸をつけよ』などという問題がありますが、はたして正解があるのかと思います」。そして自分の作品が何度も「模擬試験」に採用されて戸惑っていることなど話されていた。
随筆であれ小説であれ、文章をしたためる時には書く人にとっては何がしかの「思い」や「訴えたいこと」があるから書くわけであるが、それが必ずしも試験における正解とは限らない。人の思いは複雑で、デリケートなものである。
もうずいぶん昔の話になるが、私も一度だけ自分の書いたものが「模擬試験」に用いられたことがあった。グーグルで検索すると、平成18年8月で、「模擬試験」というタイトルで書いている。
・・・先日のこと、私のメールボックスに、東京の「河合塾」 からやや分厚い封筒がはいっていた。もう受験生もいないし、何のことだろうかといぶかりながら破いてみると、「ご利用作品(模試と集冊版)についてのお願い」という文書だった。
「・・・弊塾は小学生から高卒生までに対し、学習指導・学力教授を行っている学校法人です。その一環として、公開模擬試験を作成・実施しており、文芸家の皆様の作品を一部複製し使用させて頂いております。また模擬終了後は集冊版に収録し高校へ学習指導用の教材として無料で提供しております・・・」。そして著作権のこと、利用料(受験者数が1万人未満の場合が8,000円、1万人を超すと16,000円だという)などが細かに記載されている。
正直に告白すると、自分の文章がどのような形にせよ引用されるのは嬉しいもので、早速、同封の返信用封筒で「諾」と返送した。河合塾の国語の先生だろうか、拙著を読んで「問題として適切だ」と判断してくれたことになる。
「次の文章は、難病医療に携わり続ける医師によるものである。これを読んで、後の問いに答えなさい」というのが問題文であるが、まだ模擬試験は実施されていないので、「次の文章」については、ここでは明らかにできない。(残念ながら、どの本のどの文章だったかは覚えていない)。
話は変るが、平成14年ごろある厚生労働省の若手キャリア官僚から「引用の許可願い」があったことがある。この方は厚生労働省への入省勧誘パンフレット作成のため、私が平成11年1月号の「医療の広場」に書いた「デュシェヌ型筋ジストロフィー患者の死」という部分を引用したいということだった。この若手官僚によると、「3年前に厚生労働省に入省すべきか、迷っていた。弁護士の道を選んだ方がより多くの人を救うことができ、人のためになるのではないかと考えた」。その時に人事の担当者から渡されたのが、私の書いた「医療の広場」だったという。結局この若手官僚は厚労省に入り、厚生行政の分野で活躍中である。(この官僚の名前も覚えていない)。
自分の文章がある若者の一生を左右したなどという大それた気持はないが、少しは人生の岐路で参考になったということだろうか。当時は私自身も「難病医療」にのめり込んでいた時代だったので、その気持ちが行間に感じられたのかもしれない。