PETの結果説明での一コマである。
  　「私は23歳のユニクロの女性しか診ないことにするからね」と、健診科の担当の女性に冗談で宣言する。今朝の健診で、ユニクロに務めているという、珍しく若い23歳の女性が来られたからである。すると「先生、82歳ですが、お元気そうですよ」と言われる。
  　部屋にはご夫婦で入って来られたが、言われる通り見た目には心身ともにお元気そうにお見受けする。小柄であるが、82歳の人生を実直に頑張って生きて来られたようで、顔貌からも読み取れる。
  　82歳ともなると検査で全て「完璧」という方は少ないわけで、いくつか気になるところを話したり、精密検査が必要なこともある。そんなこんなでいろいろな説明をしたのち、「どのようなお仕事されているんですか」と聞いてみた。すると鹿児島ではほとんどの人が良く知っている「ガーデンショップ＆緑化センター」の社長さんであった。
  　「私も昔は木市などで果物の苗木など買ってきて、庭に植えていましたがね。マンションに住むようになると、植える場所がないですから」というと、「本当にその通りで、わしらの仕事も経営的に大変な時代になりましたよ。でも今年は、ディズニーランドと国立競技場に大木を依頼されましてね。大きな夢ができました。ディズニーなどはアメリカの本社からわざわざ見に来るほどの力の入れようで・・・。その木の根元には私らの会社の名前も刻印されるそうですよ。機会があったら「川崎」という名前をみて来て下さい」と嬉しそうに話される。
  　「鹿児島空港の傍にある緑化センターもうちの経営ですよ。あまり宣伝はしていないのですが」と言われる。「そうなんですか。私も昔一度、行ったことがあります」と昔のことを思い出す。もう20数年ほど前に、当時九州医務局次長だった長谷川先生が川村医療課長と病院の巡視に来られたことがあった。長谷川先生は碩学で、何事についても興味を示され、鹿児島の熱帯植物を見学したいということで、空港近くの緑化センターを見学したことがあったのである。
  　そしてこの夜は、妙見のおりはし旅館に泊まった。当時この旅館は客が少なく、「○○療養所みたいだね」と冗談を交わしたが、今やこの旅館、妙見でもトップクラスの高級旅館に変身している。
  　この82歳の男性の生き方を考えると、幾つになられても、夢や希望が持てるのはいいことだと思うことである。